開発経済論: 効果推計
聖心女子大学国際交流学科
2024年秋学期
- Abhijit Banerjee: インド人。理論経済学者。MIT教授。
- Esther Duflo: フランス人。開発経済学者。MIT教授。
- Michael Kremer: アメリカ人。理論経済学者。ハーバード大教授。
受賞理由:
「貧困緩和に実験的手法を導入した功績。貧困(という大きな)問題を小さな扱いやすい問題に分解し、実験を使って対策を示した。」
長所
- 歪みなく効果を計測できる(internal validity)
- (結果に疑問を挟む余地は少ないので無駄な議論を節約できる)
- 被験者をランダムに治療群the treatedと統御群the cotrolに割り振り、前者にのみ介入
- Randomisation of treatment: 治療群と統御群は相似、異なるのは介入の有無だけ
- 結果指標の違いは介入が原因と解釈可能
貢献 * 政策の根拠を推測から科学的証拠に変えた: evidence based policy making * 研究者も証拠の質を議論するようになった * 実験可能な事象・研究が提示すべき証拠の質の基準を上げた\(\rightarrow\)転じて観察データを使う研究の対象を明確化
例
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教科書無料配布よりも(ケニア西部)、無料学校給食よりも(ケニア西部)、習熟の遅い生徒に補習させる方が試験点数を上げることが分かった(インド、ムンバイ近郊)
短所
- メカニズム・理由(なぜ効果があったか)と無関係に実施可能。このため、理論を意識しなくても実験が可能。メカニズムが不明なので、その他地域への適用可能性(external validity)が不明。
- 地域: インドで効果1ならガボンではどのくらいの効果?
- 実施主体: NGOは能力もモラルも高く、政策担当者と比較にならない
- (該当する理論が存在しないときに先入観無しにできることが良いときもある)
- 大きな政策を扱えない。大規模実験(e.g., ジャムナ橋建設)は統御群をなくす。
- 標本サイズが小さい(\(\leftarrow\)予算がかかるから)ので推計値の精度が低い。参加率が低いと分析に使える標本がさらに減る。マイクロファイナンス実験。
- 実験バイアス: Hawthorne effect (treated), John Henry effect (control; raced against machine)
短所
- 検討手段が実験可能なものに集中: 薬、職業訓練、教材、補助教員、肥料、携帯
- ランダム化しやすい: 親の学歴や年齢、家族構成は無理
- 小さい(分割可能で被験者に割当可能): 橋や為替レートは無理
- 倫理的に許要できる: 母乳育児、違法行為(贈賄: インド)推奨は駄目、政治デモ参加推奨(して参加人数計測)は文脈による(Bursztyn et al. 2021)?
- かと思われたが、やはり、批判されている{McDermott and Hatemi (2020), “Should scholars be allowed to start a riot to see how violence spreads?”]。350香港ドル=45ドルくらい。
- 筆者たちの主張(オンライン付論):
- 4大学(Munich, Stanford, UC Berkeley, HKUST)のIRB承認を得ている
- リスクは小さい(10/15回で逮捕者ゼロ、2003年からのべ135万人が参加なのでデモ参加は日常から乖離せず、実験当時の2017-2018に言論の自由は保障されていた、軍による鎮圧可能性は小さい) ← 先読み感ゼロ、想像力が…当局が写真撮るかもよ?
{height = 7cm} 出所: <>https://diabetes.diabetesjournals.org/content/64/4/1105<>
倫理上、母乳育児や母乳育児に金銭的誘因を与える「推奨」を実験できないが、母乳育児の非金銭的「推奨」(内容伝達)を実験しても倫理的に問題ない
ただし、推奨内容が比較対象の女性に伝わらないか統御は難しい
実験がうまくいき、効果があると分かっても、政策に採用されるかは別問題
政治家および投票基盤が政策実施=得策と思わねばならないから
- 個別補習の費用対効果が最も大きい: 学校教育の不十分さを示す結果。実験は学校教育の質の低さへの対症療法を示したが、根治療法を示していない。根治療法は教員・公務員組合等の反対で政治的に困難だろう。
実験は思いついた政策に効果があるか気軽に試せるが、必要となる作業監理と予算は多いために、本当に検討する価値のある政策を選ばないと資源の無駄
投与と反応を見る疫学研究ではなく、人々の意志決定と行動選択を含む経済学研究なので計測に費用がかかる